2020年の本格建設開始を目指すハイパーカミオカンデ(以下HK、岐阜県飛騨市神岡町)について、関係各国が議論する第二回予算検討会議(HKFF)が2019年6月27日、東京大学本郷キャンパスで開かれました。ハイパーカミオカンデの建設に向け、日本政府は2019年度に調査費を予算化しましたが、今回の会議で日本も含め12カ国の研究者が、それぞれ貢献の具体的な内容を表明しました。
HKは、現行のスーパーカミオカンデの約8倍の有効質量を持つ巨大水タンクとそのタンクの中に並べる超高感度光センサーからなる実験装置で、陽子崩壊の発見やニュートリノのCP対称性の破れ(ニュートリノ・反ニュートリノの性質の違い)の発見、超新星爆発ニュートリノの観測などを通し、素粒子の統一理論や宇宙の進化史の解明を目指しています。
今年1月に続く第二回目の会議には、アルメニア、ブラジル、カナダ、フランス、イタリア、韓国、ポーランド、ロシア、スペイン、スイス、英国、そして日本の計12カ国から政府機関関係者および研究者約45人が参加しました。
会議の冒頭、梶田隆章 宇宙線研究所長/次世代ニュートリノ科学連携研究機構長が「HK計画の実現には参加国の貢献が不可欠です。今回の会議では、各国に貢献できる内容について表明をいただき、今後の方針について議論できればと思います」とあいさつ。この後、Eligio Lisiイタリア国立核物理研究所(INFN) Bari教授による基調講演 ”Mapping the Neutrino World”が行われ、HK実験におけるニュートリノ研究に対し、大きな期待が述べられました。
挨拶に立った西井知紀 文部科学省研究振興局学術機関課長は、「文部科学省においてもハイパーカミオカンデの科学的意義や国際競争の激しさは理解しており、現在実施中の可能性調査の結果を踏まえ、戦略的・長期的な視点をもって、必要な支援に努める所存です」と述べました。これに引き続き、五神真 東京大学総長は、「文部科学省と共に必要な経費の確保に最大限の努力をしているところです」との挨拶を行いました。
さらに梶田隆章所長と齊藤直人 高エネルギー加速器研究機構教授/J-PARCセンター長により、各機関の準備状況や予算化への取り組みが報告されました。
また、東京大学・素粒子物理国際研究センターの森俊則教授が、6月25日、26日に開催された、HK計画について科学技術や運営の面から提言を行うアドバイザリー委員会(HKAC)の見解を報告しました。ここでは、①ハイパーカミオカンデが重要な科学目的を持つ世界的なプロジェクトであることに加え、②国際的な参加の重要な機会であること、③実現に向けた準備状況が大きく進展していること、④日本が中核となるインフラ施設の整備に責任を持つこと、⑤国際協力が不可欠であること—などが指摘されました。
日本によるインフラ等の最新整備計画の説明の後、各国の代表が登壇し、ブラジル、カナダ、フランス、イタリア、韓国、ポーランド、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、英国から、貢献予定についての表明(EOI)が行われました。この中には、大型水槽内に設置する高性能光センサーやそのカバー、電子回路、計算機システム、校正装置、地磁気補償コイル等の開発・製造に加えて、前置検出器やビームラインの改良・新設などが含まれています。これらの発表に引き続き、出席者から各国における検討状況の報告、ならびにプロジェクトに対する質疑応答が行われ、会議の総括を議論して閉会しました。
翌28日には、ハイパーカミオカンデに向けてニュートリノビームを発射する予定の大強度陽子加速器施設J-PARC(茨城県東海村)の視察が行われました。参加者たちは、齊藤センター長からJ-PARC全体についての概要説明を受けた後、ニュートリノ製造に必要な大強度陽子ビームを生成するメインリングシンクロトロン(MR)などの加速器群に加え、ニュートリノ実験施設、ハドロン実験施設、中性子ビームを用いる物質・生命科学実験施設(MLF)を視察。各施設の担当者から、実験の目的や研究内容などの説明を受けました。